「認知症と生活」(前編)

1.認知症になると生活はここが困る

 認知症になりますと、脳機能が低下し認知、記憶、ワーキングメモリー、視空間認知、視覚性運動能等の低下を見ます。周囲のモノが何であるか、何に使うのか、どう使うのか、情報保持と情報利用が出来なくなります。生活では、多くの食べ物、衣類、家庭用品、電化製品、情報通信製品、移動用品などで豊かに、快適に生活をしています。これが使えなくなります。

 例えば、朝顔を洗う時にお湯を出そうとして、どうすればお湯が使えるのか、蛇口を見ても「これかな?どうするとお湯が出るのか?」となってお湯が使えず洗顔が出来なくなり、食事もコーヒーを飲むにはコップを手に「コーヒー豆はどこ?」「豆は見つかったが、これに湯を注ぐのかな?」となってしまいます。

 これが出現し、最初はしばらく考えると解決が見つかることが多いですが、時間がたつと頻回になり、常態的に起こります。これを乗り越えるために、毎日缶コーヒーを飲むようになって習慣化します。次に缶を開けることが出来にくくなり、水を飲むようになります。こうして生活が変化し、活動が限られてきます。何気ない日々の生活が出来にくくなり、汚れ、散らかり、ゴミだらけとなって生活が立ち行かなくなります。

2.認知症生活の支援ポイントをめぐって

 認知症における生活の困難さは、千差万別です。その支援はポイントをしっかり押さえることが肝要です。これが出来ないと何を支援するのかが不明で、こうだと思ってした支援が全く意味のないものとなってしまします。このポイントを押さえることが最重要課題で、そのためには時間をかけて尋ね、生活を観察して尋ね、脳機能低下を検査して尋ね、周囲の方に尋ねして明らかにします。これが出来れば、ポイントを外すことはなく感謝されます。

 しかし、失語症状があると、疎通性をとることが難しく、尋ねて聞き出すことが困難となります。言葉でなく、絵や画像を使って推理することも必要で、ジェスチャーでやって見せたりやって頂いたりの試行錯誤を繰り返すこともあります。トコトン追求する根気が大事です。

 こうして問題点が見つかり支援を考える時、問題点に関わる傷害された脳機能を補助する支援を考える方向が重要となります。支援で本人の代わりをすると、低下し始めた機能は一気に壊れてしまって、リハビリになりません。残っている機能を維持し、使うことを考えた工夫が要求されるのです。

(次回は 3.認知症生活でのお役たち品 4.認知症支援者への必要な支援)

 筆者:「タッチエム」開発・監修            

 元北海道大学保健科学研究院 教授 医学博士 村上 新治

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