「高齢者と認知症の視覚世界と自動車事故、その予防について」(前編)

1.「高齢者と認知症の自動車運転事故はなぜ起こる?」

最近、ニュースなどでみられる高齢者、認知症患者の自動車運転事故について、事故の原因が高齢と認知症と関連していることに関して社会的にどう対処するのかが問われてきています。

即ち、運転技術操作に加齢と認知症が関わっているらしいと多くの方が思っておられます。高齢と認知症が共通して関係する点は、記憶や認知機能、とっさの判断の正しさとその反応の速さ等と考えられているようです。

ですが、事故実態でこれが運転事故の原因だとしっかり言えるのは何でしょうか。記憶や認知機能が関係しているなら運転免許更新で検査されていいはずですが、視力検査だけです。
免許交付に当たって、問題になる機能について、これは誰もが納得しているのが視力だけですが、高齢と認知症の共通事項と思われている認知機能低下が近年高齢者に課されています。

しかし、それをパスしたはずの高齢者、認知症者で事故が散見されます。免許を貰えたのだから自分は認知機能低下がない、認知症ではないとのお墨付きをもらったと考えてられる人は多いと思います。

ではどのような脳機能が運転事故に結びつき、どのような検査で評価されるべきかについては、これからの課題です。その課題について、ここで紐解いて見ていきましょう。

2.「高齢者と認知症の視覚世界はどう見えている?」

誰も高齢者になると、運転事故の危険性を感じられます。若い頃と違って、よく見えないし、判断も鈍いし、動作の緩慢さが出てきている、見落としも増え、アクセルとブレーキの踏み違いも気になる等が主たる自覚事項です。

これらに関係している機能低下が事故と関連していることは当然想像されます。これらで、自動車運転事故は起こっているとそう考えても良いでしょう。そしてこれらに関係する共通の脳機能は視覚認知機能と視野情報を一時保存して運転に役立てる機能です。

ヒトは目を通して周囲の世界を見ていますが、その世界像は高齢者や認知症者の方ではどの様に見えているのでしょうか?

運転中に目が捉える視覚世界の情報と、それらが空間のどこにあったか、そして手と足は運転操作の何処に置かれているかを作り上げる脳機能は頭頂葉という脳領域にある機能です。
そこでは目からの視覚情報と眼球位置、首の位置、身体位置の情報を統合して、自分の周囲の世界(遠近、左右、上方下方)を作り上げ、身体の手足の位置情報を作ってくれることで、「見えたモノが自分からどちらの方向にどれだけ離れたところにあるか」「自分の手足や指の位置はどこにあるか」という情報を作ってくれる機能がある脳領域なのです。

すなわちヒトのナビゲーターの情報作りをしています。その作られた情報を一時的に保存して運転操作に生かして、安全に間違いなく運転するのです。

この一時的に保存する機能はワーキングメモリーと呼ばれ、前頭葉という脳領域にあります。

(後編に続く)

 筆者:「タッチエム」開発・監修            

 元北海道大学保健科学研究院 教授 医学博士 村上 新治

Copyright © HUMAN All Rights Reserved.